2024年11月の俳句

  • 電話ボックス 冬の大三角形の中

    2024.11.29 放送

    作者:今井 聖

    冬の大三角形とは、南東の空に見える一等星、おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオン、オリオン座のべテルギウスを結んでできる三角形をいいます。凍てつく冬空の、鋭い星の光が地上を照らします。明かりのついた箱の中の人物は、宇宙と交信していそう。めっきり少なくなった電話ボックスを、探したくなります。

    (監修:谷)

    音声で俳句を聞く/止める
  • 木がらしや 目刺にのこる 海のいろ

    2024.11.28 放送

    作者:芥川龍之介

    木枯らしは、晩秋から初冬に強く吹く北風です。木を枯らせるほど吹きすさぶことから、こう呼ばれます。目の前の皿に横たわる目刺の肌の青から、海が広がるようです。外は木枯しですが、熱燗に目刺なら幸福です。龍之介には、句集『澄江堂句集』があり、「木がらしや東京の日のありどころ」という句も作っています。

    (監修:谷)

    音声で俳句を聞く/止める
  • 輪読の輪と 水鳥の水の輪と

    2024.11.27 放送

    作者:川島由紀子

    輪読とは、数人が順番に一つの本を読んで、解釈や研究などをすることです。俳句の仲間同士だと、例えば正岡子規の「墨汁一滴」を読み合っているのかも知れません。窓の外では、越冬のための水鳥が水面に波紋を作っている。室内の張り切った人の声と、広がる水の輪が呼応するような、静謐な風景です。

    (監修:谷)

    音声で俳句を聞く/止める
  • 木琴に 日が射しをりて 敲くなり

    2024.11.26 放送

    作者:林田紀音夫

    例えば子が使っている木琴がそこにあって、普段は気に留めていません。昨日までは日陰のような存在だった木琴に日が射して、にわかに心惹かれたのでしょう。久し振りの明るい木の音に、すこし感傷的になったかも。この句に季語はありませんが、言葉の流れが醸し出す暖かさは、冬の日の出来事のような気がします。

    (監修:谷)

    音声で俳句を聞く/止める
  • ポケットに 入らぬものに 朴落葉

    2024.11.25 放送

    作者:夏井いつき

    朴の木は二〇メートルにも達し、葉の大きさは大人の靴ほどです。枯れて落ちる時も、ばさっと乾いた音を地に響かせます。拾った朴落葉を、しばらくはかざしてみたり、くるくる回して楽しんだに違いありません。でも大きくて、いずれ持て余しそう。「ポケットに入らぬもの」と定義して、手放したでしょうか。

    (監修:谷)

    音声で俳句を聞く/止める
  • 草の名を 聞きたがる子と 野の小春

    2024.11.22 放送

    作者:雫 りー(西予)

    野原を歩いていると、子どもが草の名前をいちいち聞きたがります。あの草は何? こっちの草は何ていうの? 名前のない草はありませんが、大人もそこまで詳しくありません。適当に返事をしながら、草をそよがせる風に吹かれ、のびのびと歩きます。小春日和、みなさんも、外へ出て日差しを感じてみませんか。

    (監修:神野)

    音声で俳句を聞く/止める
  • 二人して 渚に間取り 書く小春

    2024.11.21 放送

    作者:吉野敬子(埼玉)

    親しい二人が海に来て、浜辺で語らっているのでしょう。もし一緒に住むとしたら、こんな家がいいという理想の間取り。玄関はここ、キッチンはここ、想像しながら砂浜に描きます。ほのぼのとした小春の日差しが、寄り添う背中をあたため、二人の未来をやさしく照らします。

    (監修:神野)

    音声で俳句を聞く/止める
  • バター味の 労研饅頭 食む小春

    2024.11.20 放送

    作者:樫の木(大分)

    労研饅頭は、酵母菌を使った蒸しパンです。昭和のはじめ、労働科学研究所が、中国の饅頭をアレンジして生まれました。松山では今も、ソウルフードとして愛されています。中にバターが練り込まれた労研饅頭なら、栄養も摂れ、優しい甘みにほっとできそう。みなさんなら、小春のおともに、何を食べますか?

    (監修:神野)

    音声で俳句を聞く/止める
  • 船乗りの 父の納骨 小春凪

    2024.11.19 放送

    作者:岩ア 久美(松山)

    小春のころの穏やかな海の凪ぎを「小春凪」と呼びます。船乗りだったお父さまを見送り、納骨の日を迎えます。海が見えるところにお墓があるのでしょうか。納骨を済ませ海を見やれば、小春の光が優しくゆきわたっています。穏やかに凪ぎわたる海に、亡くなった父への慕情が、やわらかく溶けてゆきます。

    (監修:神野)

    音声で俳句を聞く/止める
  • 給食の食パン 小春のうさぎ小屋

    2024.11.18 放送

    作者:東田一鮎(松山)

    小春のあたたかい午後、校庭のうさぎ小屋を覗きます。草食のうさぎはパンを食べるとおなかを壊してしまうので、分けるわけにはいきませんが、食パンをぱくぱく食べる子どもの姿と、キャベツをむしゃむしゃ食べるうさぎの姿が、すこやかに重なります。ふっくらとした食パンのような、小春の時間です。

    (監修:神野)

    音声で俳句を聞く/止める
  • カンガルー 皆寝そべつている小春

    2024.11.15 放送

    作者:野々村澄夫(東京)

    あたたかな小春の日溜りにいると、のんびりとくつろぎたくなります。動物園のカンガルーたちも、同じみたい。カンガルーらしくジャンプする者はおらず、みんなが寝そべって、穏やかに日差しを浴びています。人間も動物も、寒い冬の入口で、ほっと一息つく、小春のひとときです。

    (監修:神野)

    音声で俳句を聞く/止める
  • ターナー島の 松青々と 小春凪

    2024.11.14 放送

    作者:やぎ じゅうめい(松山)

    ターナー島は、松山の沖合に浮かぶ、小さな無人島です。夏目漱石の小説『坊ちゃん』の青嶋のモデルで、島に生えた松がイギリスの画家ターナーの描いた松に似ていたことから「ターナー島」と呼ばれています。瀬戸内の海もよく凪いで、穏やかな小春の日。冬でも青々と、松は自らの命を輝かせます。

    (監修:神野)

    音声で俳句を聞く/止める
  • 「湿布貼ってくれや」小春の父の尻

    2024.11.13 放送

    作者:ゆすらご(松前)

    お尻に湿布を貼ってもらうのは、本当に親しくなければなかなか頼めませんよね。セリフがそのまま俳句になっているのも、ユーモラスで、体温を感じます。突き出された父の尻も、小春ならば、いつもより大切に思えそうです。家族の何でもない日常が、滑稽味も交えながら、いきいきと切り取られました。

    (監修:神野)

    音声で俳句を聞く/止める
  • パン生地をくるん 小春を巻くように

    2024.11.12 放送

    作者:苫野とまや(長野)

    あたたかな小春のひと日、思い立ってパンを焼きます。くるんと巻くなら、クロワッサンでしょうか。練ったパン生地を形に整えていくとき、小春の日差しや空気ごと、やわらかく巻いていきます。言葉のリズムに、小春の軽やかさがよく感じられます。きっと、ふっくらと香ばしいパンが焼き上がりますね。

    (監修:神野)

    音声で俳句を聞く/止める
  • 背伸びして 手紙入れる子 小春風

    2024.11.11 放送

    作者:みらんだぶぅ(岡山)

    立冬を過ぎても、本格的な寒さはもう少し先。十一月に、まるで春のように暖かい日和を小春と呼びます。緊張感がふっと緩み、穏やかな気分に包まれます。ポストに手紙を入れるとき、まだ小さいので背伸びしている子を見かけました。懸命な姿にほほえましさを覚えるとき、小春の優しさが満ちてきます。

    (監修:神野)

    音声で俳句を聞く/止める
  • 傷口が 時雨呼ぶらし 一葉忌

    2024.11.08 放送

    作者:嵯峨根鈴子

    時雨は、初冬に急に降り出し、直に通り過ぎる局地的な通り雨のことをいいます。雨が降ると、傷口や身体の弱いところが疼くことがあります。樋口一葉の忌日は、十一月二十三日。『たけくらべ』『にごりえ』などすぐれた小説を残して、二十四歳で亡くなりました。一葉への思慕が、傷口のように時雨を呼ぶのかもしれません。

    (監修:谷)

    音声で俳句を聞く/止める
  • 立冬の 女生きいき 両手に荷

    2024.11.07 放送

    作者:岡本 眸

    立冬は、十一月七日頃で、俳句では冬の初日です。「リットウ」の響きに、どことなく身が引き締ります。荷物は、冬支度を兼ねての買い物を想像します。今なら、大きいエコバッグか紙袋を両手に下げているでしょうか。冬に立ち向かうように、その姿がいきいきとして見えるのは、女性ならではかもしれません。男性はどちらかというと、背を丸めていそう。

    (監修:谷)

    音声で俳句を聞く/止める
  • 柿くふも 今年ばかりと 思ひけり

    2024.11.06 放送

    作者:正岡子規

    こうして柿を食べることが出来るのも、今年限りだろうなあ、という句。柿好きの子規が、いかにも惜しそうに齧っている姿が目に浮かぶようです。子規は随筆「くだもの」に、「柿は非常に甘いのと、汁はないけれど林檎のようには乾いて居らぬので、厭かずに食える」と、書きます。この句を作った翌年、子規が柿を食べることはありませんでした。

    (監修:谷)

    音声で俳句を聞く/止める
  • 晩メシだ みやげは紅葉 一枚だ

    2024.11.05 放送

    作者:宮嵜 亀

    家の晩御飯が、ひと際楽しみな日のようです。ハードな仕事を終えた日か、出張帰りかもしれません。一目散に「晩メシ」をめざしますが、今日はとっておきの土産があります。帰路、色づく木に急ぐ足を止めました。きらきらした一枚の紅葉は、今の自分の気持ちのようにも思われました。差し出された土産に、家族の表情も思わず緩んだことでしょう。

    (監修:谷)

    音声で俳句を聞く/止める
  • ゆく秋や 石鎚曇る 伊予の旅

    2024.11.04 放送

    作者:飯田蛇笏

    作者・蛇笏には「くろがねの秋の風鈴鳴りにけり」という有名な句があります。その蛇笏が伊予を訪れたのは昭和七年、四十八歳の晩秋でした。当時は水上機から石鎚を眺めたようですが、ぼんやりとしか見えなかった「伊予の旅」でした。風景は変わっても、石鎚山は変わらず私たちの心の拠り所です。

    (監修:谷)

    音声で俳句を聞く/止める
  • 今日こそは 今日こそはと今日 障子貼る

    2024.11.01 放送

    作者:及川 貞

    十七文字の中に「今日」が三回も出てきます。いかに障子貼りに思いっきりが必要か、ひしひしと伝わります。冬を迎える前に、かつてはどこの家庭でも障子を貼り替えていました。古い障子紙を水で剥がし、乾くのを待って張り替える作業は、手間のかかる一大作業だったのです。張り替えたあとの安堵感と、眩しい障子の白さもまた、ひしひしと。

    (監修:谷)

    音声で俳句を聞く/止める

テレビ愛媛ではみなさまから
俳句を募集しています!

2月のお題は
「薄氷」 です

応募フォーム、メールアドレス、ハガキの中からご応募ください。メールアドレス、ハガキでのご応募は、お題を含む俳句(ふりがな)・氏名(ふりがな)・住所・電話番号・メールアドレスを記載してお送りください。一人何句でも応募可能です。選ばれた俳句は、EBC Live News「きょうの俳句」コーナーでの放送のほか、テレビ愛媛のホームページ等で紹介します。作者の氏名(ペンネームの場合はペンネーム)、お住いの市町名(ジュニアの場合は学校名)も紹介されます。
(採用された方には放送日を事前に連絡し、記念品を贈らせていただきます。)
※俳句の募集は、毎月第2月曜日、午後6時から開始します。

応募規約

・応募作品は未発表で、ご自身の作品(著作権がご自身にある作品)に限ります。
・他人の作品に著しく類似、または他人の作品の盗用など、第三者の権利を侵害する可能性があると判断した場合は、応募の対象外とします。
・テレビ愛媛は応募作品による権利の侵害等に対し、一切の責任を負いません。

個人情報の取り扱いについて

頂いた個人情報は、優秀句に選ばれた方への事前連絡並びに記念品をお送りする際にのみ使用させて頂きます。

俳句の応募はこちら

メールアドレスからの応募: 応募先メールアドレス

ハガキからの応募:
〒790-8537 テレビ愛媛「きょうの俳句」係

すべての俳句を聞く
掲載されている句がランダムで再生されます
すべて聞く/止める

最新の俳句

バックナンバー

pagetop