2023.03.31 放送
手ぶらは身軽くもありますが、なんとなく心許ない気もします。定年を迎え、肩書きが無くなったことも、手ぶらのうちに入るでしょうか。自分の心境と関係なく、流れていく春の川の表情は豊かです。雪解けに水嵩が増し、そのうち落花を浮かべます。この人もだんだんと手ぶらに慣れて、これまでとは違う豊かな日常が待っているに違いありません。
(監修:谷)
2023.03.30 放送
遍路も、遍路道も春の季語です。老若男女それぞれの祈りを秘めて、四国八十八か所を巡り歩きます。笠には「同行二人」、いつも弘法大師が一緒です。道にはときどき、指をかたどった矢印が石や板に刻まれて立っています。お遍路さんには、出会ってほっとする道しるべでしょう。「鶴亀薬局」の名の薬局が傍にあれば、尚更です。
(監修:谷)
2023.03.29 放送
自由律俳人の作者が、お遍路で伊予路を歩いたのは、昭和13年3月のことでした。ちょうど柳が芽吹き始める頃です。遍路で歩いたからこそ、伊予の美しい柳の青さに気づき、目を奪われたのです。重かった足取りも軽くなったかもしれません。井泉水は、尾崎放哉、種田山頭火らすぐれた俳人を輩出しました。
(監修:谷)
2023.03.28 放送
「暖か」は、春の気持ちのよい、程よい気温のこと。春の最もよい特徴です。そんな日、友人か、家族か、職場の同僚なのか、悩みを聞いてあげているようです。でも、深入りは禁物。かかわらずと心に決めて、一心に話に聞き入ってあげています。聞き上手が一番。二人の関係を、活気づく春の日差しが、あたたかく包んでいます。
(監修:谷)
2023.03.27 放送
子どもの頃に住んでいた家の記憶でしょうか。あるいは恋人の家?覚えているのは木蓮と、大きな門があったことのみ。春にひときわ目を引く花が、木蓮です。紫色を咲かせるのが紫木蓮、白い木蓮は白木蓮、または、はくれんと言います。大きな門を持つ家に聳えていたのは、はくれんの気がします。圧倒的な輝きで、遠い記憶の花が蘇ります。
(監修:谷)
2023.03.24 放送
郵便ポストに蝶が来ました。赤いポストに蝶の光がまぶしくこぼれ、春をほがらかに彩ります。ポストは手紙を投函する場所です。その手紙が届く未来を思うとき、自然と、「あした天気になあれ」というつぶやきが生まれました。かろやかな蝶に力をもらって、明日に希望を託します。
(監修:神野)
2023.03.23 放送
亡くなった妻が、今、柩に眠っています。野の花が似合う素朴な人だったのでしょう。彼女に捧げるために摘んだ野の花を、柩にそっと収めると、白い蝶が寄ってきました。花の咲く野原で微笑んでいた、在りし日の妻を思えば、胸が苦しく締(し)めつけられます。蝶の白さが、清らかに、妻の旅路を導きます。
(監修:神野)
2023.03.22 放送
爆撃を受けた戦地でしょうか。何もかも壊され、黒々と焼けた焦土を、蝶が飛んでいます。どこから生まれてきたのでしょう。喪失の上にひらめく、命の光。体を離れた魂が、その奇跡の蝶に触れようと、透明に輝きます。魂がやすらかに眠り、蝶や人々がすこやかに憩える大地が、再生することを祈ります。
(監修:神野)
2023.03.21 放送
二つのものの重さをはかる天秤の、右側に正しさを載せました。そして左側には、蝶。蝶は一見、ふわりと飛んでゆきそうですが、さて、正しさと蝶の命、どちらが重たいのでしょう。ゆきすぎた正義は、他者を排斥することもあります。蝶の軽やかさが、複雑な世界のバランスを、危うく保っています。
(監修:神野)
2023.03.20 放送
郡中線は、松山市駅から伊予市の郡中港をつなぐ、伊予鉄道の路線です。重信川を越えると広がる田園風景。沿線の菜の花に遊んでいた蝶たちへ、電車が近づきます。ぶつかるかと思いきや、ひょいと軽やかに、蝶は電車をかわしました。ほがらかな春の風景です。
(監修:神野)
2023.03.17 放送
その春はじめて見かける蝶を、特に「初蝶」と呼びます。ふと舞い出てきた蝶に、手もとにあったビー玉をかざしました。ビー玉の丸い光の向こうに、飛ぶ蝶が透けて見えます。小さなビー玉のうちに初蝶を捕まえた一瞬を、心の高鳴りそのままに言いとめました。
(監修:神野)
2023.03.16 放送
春は生きものたちの恋の季節です。季語にも、猫の恋、鳥の恋、そして蝶の恋があります。蝶もまた、ひとたび生まれれば、子孫を残すために恋をします。青空はどこまでも開放的で、蝶たちの恋は、何に隠されることもありません。堂々と生を謳歌する蝶の恋を、人間はまぶしく見やります。
(監修:神野)
2023.03.15 放送
童話の主人公・ピノキオは、命を与えられた木の人形です。よく嘘をつくので、そのたび、戒めに鼻が伸びてしまいます。嘘をついて伸びたピノキオの鼻先に、蝶がやって来ました。蝶の止まり木となれるなら、嘘も悪いことばかりではありませんね。謝って鼻が戻れば、蝶も青空へ飛び立つでしょう。
(監修:神野)
2023.03.14 放送
かんなは、材木の表面を加工する道具です。木をかんなで削ると、その皮がするすると薄く剥けます。そのかんなで削った木より、蝶の羽はもっと薄いのだと比べました。日に透けて輝く、蝶の羽の繊細な造型。人間の生活と交差する、蝶の美しさをとらえました。
(監修:神野)
2023.03.13 放送
春になると、羽化した蝶たちが、あたたかな風の中を舞いはじめます。中でも「蝶生まる」という季語は、羽化したばかりのういういしさ、命の尊さを感じさせます。さなぎを出たばかりの蝶は濡れて、光すらひりひりと感じるのかもしれません。むきだしの命に、はじまったばかりの春がうずき出します。
(監修:神野)
2023.03.10 放送
季語「水温む」は、寒さがゆるみ、沼や池の水がなんとなくあたたまってくること。魚は活発に、水草も生えてくるなど水中も春になるのです。今日の句は、餌と一緒に、温んだ水も与えているのでしょう。漱石は小品『文鳥』の中で、「自分は急に自分の大きな手が厭になった」と、小さな鳥に餌をやるときのことを書いています。
(監修:谷)
2023.03.09 放送
何かにこだわって生活していくことは、「ぶれない」と同じくらい、カッコいいことのような気がします。でも、こだわらず生きている人も、魅力があるように思います。太るこの妻は、とてもおおらか。妻を見る夫もまた、おおらかな感じ。そういえば、シクラメンは別名を豚の饅頭ともいいますが、そんな意地悪は、この夫からは感じられません。
(監修:谷)
2023.03.08 放送
吟行に出かけたのでしょうか。句帳にまだ何も書いていません。さあ作るぞ!という意気込みを、スギ花粉が邪魔をします。「花粉噴く」に、この日の花粉のすさまじさと、この人のくしゃくしゃになる顔が目に浮かぶようです。悩ましい花粉症とは、うまくつき合いながら、春の野山に出かけたいです。
(監修:谷)
2023.03.07 放送
季語「山笑う」は、広辞苑では「春の芽吹きはじめた華やかな山の形容」と、書かれています。「おすわり」ですから、もしかしたら犬かも知れません。もちろん赤ちゃんでもいいですね。おすわりの姿をスフィンクスのようだと表現して、楽しい句です。向こうに控える春の山もまた、スフィンクス然として据わっています。
(監修:谷)
2023.03.06 放送
今日は、二十四節気の中の「啓蟄」です。土の中で冬眠していた蟻、蛇、蛙などが穴を出て来る日とされています。でも現実は、三寒四温の日々。虫たちは出あぐねていそうです。扉がふいに開いて閉まった、というのは、地中から出ようとしている虫の仕業かも。この時期、こんな不思議な現象が起きたら、まずは地に目を落としてみたいです。
(監修:谷)
2023.03.03 放送
きれいな色のひし餅を手にのせて、ひし形への素朴な問いが生まれてきたのでしょうか。今日は、雛祭り。桃の節句ともいいます。愛媛では月遅れの4月3日に祝う地域も多いです。飾り付けに案外と時間を取られるので、つい億劫になってしまいます。でも、この句を前にすると、そんな気持ちが恥ずかしくなりました。
(監修:谷)
2023.03.02 放送
春愁、すなわち春ゆえの淡く悲しい思いに髪を切る決断は、女性に限られたことではないようです。失恋で髪を切る行為も、女性のもののような気がしていました。この人は男だって切るのさ、と呟いています。なんだか女性が切るよりも爽やか?春愁の髪をカットして、きれいで端正な男性が現れました。
(監修:谷)
2023.03.01 放送
来島海峡の潮の流れは、鳴門海峡、関門海峡と並んで日本三大急潮に数えられます。ここを航行する際には特殊な規則が設けられているそうです。激しい渦潮に、春を呼ぶ雪が繊細に触れては消えてゆく。いつまでも眺めていたい風景です。作者は高浜虚子のめいです。戦後2期8年間、波止浜町長を務めた今井五郎に嫁ぎました。
(監修:谷)
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