2021年11月の俳句

  • 時雨るるや ケアのランチは オムライス

    2021.11.30 放送

    作者:深見けん二

    「時雨」は、冬のはじめにパラパラと降るにわか雨です。変わりやすい外の天気を眺めながら、ケアハウスでの昼食の時間。今日の献立はオムライスです。時雨の降る寂しさを、オムライスの黄色が明るく癒やします。作者は、高浜虚子の最晩年の弟子で、この秋、99歳でこの世を去りました。最後に編まれた句集『もみの木』に収録の一句です。

    (監修:神野)

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  • 石蕗咲いて 天上はいま 光凪

    2021.11.29 放送

    作者:岩岡中正

    石蕗は、冬にさきがけて、町角に黄色い花を咲かせます。草花が枯れて寂しくなる地上に対し、空の上、天上は光が静かに満ちていると詠みました。風がやんで凪ぎわたる水面のように、空一面にゆきわたる光。冬のはじめの静かな時間を、ゆったりと大きくとらえた、格調高い一句です。

    (監修:神野)

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  • 綿虫の寄り来 おむすび頬ばれば

    2021.11.26 放送

    作者:名取里美

    初冬の風のない夕方に、群れをなして青白く光りながら空をふわふわと飛ぶ虫を見かけることがあります。アリマキ科の昆虫で、体長二ミリ、白い綿状の分泌物を持っていることから「綿虫」とよばれます。空を舞う雪のように見えるので「雪蛍」ともいいます。おむすびを頬ばっている人の方へ寄ってくる綿虫。おだやかな初冬の夕暮れらしい趣のある情景です。

    (監修:池内)

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  • 落葉して 落葉して まだ落葉せる

    2021.11.25 放送

    作者:黛まどか

    冬になると、あらゆる落葉樹は葉を落とします。「落葉」を詠むには、梢から離れて風に舞う姿と、地上に散り敷いた葉の両方があります。どちらも美しさの中に、もの寂しさの感じられる眺めです。この句は、「落葉」という季語を三度も重ねることで、宙を舞う葉と地上に降り積もっってゆく葉のすべてを、鮮やかに描いています。

    (監修:池内)

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  • 啄ばまれ 種が見えます 木守神

    2021.11.24 放送

    作者:横川はっこう

    柿を捥いで収穫したあとに、実を一つだけ木に残しておくのが「木守柿」です。「木守」あるいは「木もり」ともいわれ、柿のほかに柚子でも行われる風習です。実を残しておくのは、翌年の稔りへの祈りのためとも、小鳥のためともいわれます。この句の木守柿は、さっそく鳥に少し啄ばまれたのでしょう。種がよく見えているようです。口語表現が効果的に使われています。

    (監修:池内)

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  • 大根干す 峡に一戸の大藁屋

    2021.11.23 放送

    作者:高橋悦男

    この句の季語は「大根干す」。初冬のこの時季、収穫して洗った大根は、十日くらいしてしんなりとさせます。縄で括って軒に吊したり、稲架のように丸太や竹を組んで架けたりします。これは山間に一軒だけ残った大きな藁葺の農家に、びっしりと干されている大根。藁屋根の下の大根の白さが、鮮やかに浮かんでくる一句です。干しあげた大根は沢庵漬けにするのでしょう。

    (監修:池内)

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  • 茶が咲いて ほのとはなやぐ 屋敷神

    2021.11.22 放送

    作者:前澤宏光

    茶はツバキ科の常緑低木で、製茶用に栽培されますが、庭木としても植えられます。冬の初めに、金色の蘂のある白い五弁の「茶の花」をつけます。椿のような華やかさはありませんが、清楚なたたずまいが好まれます。茶の花は、この句のように「茶が咲く」という表現でも、よく詠まれます。古い庭園の屋敷神のほとりに、ひっそりと咲いた茶の花。日本の初冬ならではの、風雅の感じられる眺めです。

    (監修:池内)

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  • わが家は 銀河のはづれ 蒲団干す

    2021.11.19 放送

    作者:市ノ瀬遙

    寒い冬は、蒲団が嬉しい季節です。蒲団を干す日常的な家事も、冬の季語に分類されています。この句は、私の家がある場所を、なんと銀河の外れだと捉えました。広い銀河の端っこで、我が家は小さくもきらりと輝きます。蒲団を干すためにベランダに出たときの、りんと張り詰めた冬の空気は、宇宙とのつながりを実感させてくれるでしょう。

    (監修:神野)

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  • 明日から 冷え込むという 夕ご飯

    2021.11.18 放送

    作者:池田澄子

    夕飯を食べながらテレビを見ていたら、お天気ニュースのコーナーで、明日から冷え込むという予報が伝えられました。穏やかな小春の日々も今日までなのかと、少し寂しさを感じつつ、近づく本格的な冬に思いを馳せます。さりげない日常のひとこまを、自然体の言葉で写し取りました。

    (監修:神野)

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  • ロックスター 金・銀・豹と 着ぶくれて

    2021.11.17 放送

    作者:成田一子

    寒さを防ぐため、衣服を何枚も重ね着することを「着ぶくれ」といいます。普通の人なら、どこかもたもたとユーモラスな印象になりますが、ロックスターなら、着ぶくれも決まっているのでしょう。着込む服も、金色、銀色、そしてヒョウ柄、とっても派手です。季語のイメージを塗り替えて、往年のロックスターの華やかさを引き出しました。

    (監修:神野)

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  • 学校や 冬がおほきな 膜となる

    2021.11.16 放送

    作者:佐藤文香

    教室や廊下など、学校の校舎でボーっと外を眺めているとき、ふと、冬らしい空気感に包まれて、ふっくらと閉じ込められたような感覚を思い出します。冬という季節が、大きな膜のように、学校という空間を包みます。松山東高校在学中に俳句甲子園で活躍した作者の、第三句集『菊は雪』に収録の一句です。

    (監修:神野)

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  • 七五三 しつかりバスに つかまつて

    2021.11.15 放送

    作者:綾部仁喜

    十一月は七五三のシーズンです。子どもの健やかな成長を祝い、神社などで参拝します。この句も、七五三へ出かける途中の風景でしょう。着物などを着て、バスに乗って、目的地まで。揺られながらも踏ん張って立つ子どもの姿に、成長が見え、頼もしさを感じます。

    (監修:神野)

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  • セーターのほつれ 宇宙の寿命かな

    2021.11.12 放送

    作者:藤田瞬(松山市)

    日常些事のセーターのほつれと、宇宙の寿命という壮大なテーマを、大胆に並べました。きっちり編まれたセーターもいつしか綻んでゆくように、宇宙もまた、終わりへ向かって静かにほつれてゆくのかもしれません。寒くなってきた夜、セーターを着て見上げる星空に、大きな宇宙の時間を感じた一句です。

    (監修:神野)

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  • 祖父の忌や 微かに潮の 香のスエタ

    2021.11.11 放送

    作者:杉野圭志(松山市)

    祖父の忌日に在りし日を思えば、セーターからかすかに潮の香りがしました。祖父は海辺に住んでいたのか、はたまた漁師だったのか。いずれにせよ、祖父との記憶には、ゆたかな海の風景が広がっているのでしょう。セーターの潮の香が感覚をくすぐり、忘れかけていた祖父のぬくもりを、静かに引き寄せます。

    (監修:神野)

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  • セーターを 重ね着しても 部屋昏し

    2021.11.10 放送

    作者:ダック(埼玉県)

    寒いのでセーターを重ね着しても、部屋はどこか暗いままです。いくら体が物理的にあたたまったとしても、癒されない孤独があるのでしょう。冬が深まってゆく不安や、日差しの乏しさも感じます。セーターという季語の背負う冬の厳しさが、生きることの寂しさを引き出しました。

    (監修:神野)

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  • 餅まきや 脱いだセーター 上げて待つ

    2021.11.09 放送

    作者:藤本加奈子(松山市)

    餅まきは、家を建てる行事のひとつです。上棟のお祝いに、集まった地域の人へ餅をまき、災いを祓います。近所で餅まきがあるというので、セーターを着て出かけたのでしょう。効率よく餅をとるために、脱いだセーターを広げて、空へ掲(かか)げます。セーターにこんな使い道もあるのですね。生活の一場面がいきいきと切り取られました。

    (監修:神野)

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  • セーターに毛玉 六法全書閉づ

    2021.11.08 放送

    作者:山内佑資(伊予市)

    冬の歳時記には、コートや手袋、マフラーなど、寒さを防ぐ衣類の季語が多く採用されています。セーターもそのひとつ。この句は、司法試験に向けて勉強しているのでしょうか。着古したセーターの毛玉が、くたびれた日々を感じさせます。夜は特に寒いですから、あたたかくして風邪をひかないように。きっと努力は実を結ぶはずです。

    (監修:神野)

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  • 末枯るるごとくに 記憶薄れゆく

    2021.11.05 放送

    作者:稲田眸子

    秋も終りの頃になると、木々は枝先から、野山の草は葉の先端の方から枯れてきます。この現象が「末枯」。この句のように「末枯るる」という動詞としても使われる季語です。「末」は先端という意味です。野の草が風に吹かれながら枯れてゆく姿には、凋落の哀れさが感じられます。加齢にともなう記憶力の衰えを末枯になぞらえた一句。作者は大三島出身の俳人。俳句雑誌「少年」主宰です。

    (監修:池内)

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  • 帰り道 もう真つ暗や 薬堀

    2021.11.04 放送

    作者:本井英

    秋も深まる頃、茜、竜胆、苦参、千振などの薬草を、山野に求め歩き採取することを、「薬堀」「薬草掘る」といいます。漢方では、これらの胃腸、利尿、解熱などに効く薬草の有効な成分が、秋の深まりとともに根の部分に集まってくると考えられています。薬草を探しながら野原を巡り巡りしているうちに日も暮れて、帰り道はもう真っ暗です。これも晩秋ならではの風情なのかもしれません。

    (監修:池内)

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  • 昭和平成令和生きぬく 文化の日

    2021.11.03 放送

    作者:行川行人

    きょうは「文化の日」。昭和21年のこの日に発布された新憲法の「自由と平和を愛し、文化をすすめる」ために制定された国民の祝日です。以前は明治天王の誕生日・明治節でした。今年85歳になられた作者は、実に昭和、平成、令和と、三つの時代を生きぬいて来たことになります。天長節から明治節、そして文化の日と変わったこの日の歴史をも顧みながら、感慨にふけっておられます。

    (監修:池内)

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  • 防人の守りし岬や 鷹渡る

    2021.11.02 放送

    作者:石井いさお

    鷹には種類が多く、一年中日本にいる留鳥や、冬鳥として北方から渡ってくる鷹もいます。中でもよく姿が見られ、俳句にも詠まれているのが差羽という鷹の一種です。差羽は夏鳥としても日本で繫殖し、秋の深まるころ群れをなして南方へ帰ります。これは古代、東国から派遣された防人が守備に当たったとい、九州の岬の上空を、大群で過ぎてゆく差羽の渡りでしょうか。

    (監修:池内)

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  • 旅人をつつむ 夕日の草紅葉

    2021.11.01 放送

    作者:安立公彦

    秋もすっかり深まると、木の葉だけでなく、種々の草もさまざまに彩づいてきます。こうした「草紅葉」には、樹木の紅葉とはちがった静かな風情があります。露や霜をおいた草紅葉は、艶々と輝いて晩秋ならではの趣です。この句は旅先で見ている草紅葉。夕日を浴びて色を深めた草紅葉が、旅情をなぐさめるかのように、旅人を取り囲んでいます。

    (監修:池内)

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(採用された方には放送日を事前に連絡し、記念品を贈らせていただきます。)
※俳句の募集は、毎月第2月曜日、午後6時から開始します。

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