2024年8月の俳句

  • 糞虫の 神ゐる壁画 汗拭ひ

    2024.08.30 放送

    作者:飯本真矢(愛光高等学校)

    第二十七回俳句甲子園で入選に輝いた作品です。エジプトの壁画には、フンコロガシをモチーフにした神さまも描かれています。高尚なものと捉えられる神さまと、日常卑近な素材の糞虫が、古代の壁画の上で融合する面白さ。太陽の照りつける異国の暑さに、汗が吹き出します。ハンカチでその汗をぬぐいつつ、人間の歴史の厚みに思いを馳せます。

    (監修:神野)

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  • 目の多き 職員室を出て暑し

    2024.08.28 放送

    作者:鎌田龍(済美平成中等教育学校)

    第二十七回俳句甲子園で優秀賞に選ばれた作品です。職員室に入ると、先生たちの視線が自分に集まっているようで、なんとなく落ち着きません。「目の多き」というユニークな描写で、見られている感覚を表現しました。用事を済ませて職員室を出るとき、緊張が解けて、どっと暑さを感じます。生徒としての日常の実感を、簡潔に切り取りました。

    (監修:神野)

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  • 階段に 影の重なり合ふ暑さ

    2024.08.27 放送

    作者:瀬野竜旺(済美平成中等教育学校)

    第二十七回俳句甲子園で優秀賞に選ばれた作品です。学校や駅など、人の集まる場所でしょうか。人々の影が、階段に折れ曲がり、重なり合うさまを見て、暑さがどっと押し寄せました。影の重なりに疎ましさをおぼえる感覚は、現代における他者との距離感を、ナイーブに表現しています。私の輪郭が、ざわめきの中にゆらいでいます。

    (監修:神野)

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  • 戦死者の ハンカチ青し それを振る

    2024.08.26 放送

    作者:岡智咲恵(東京家政学院高等学校)

    第二十七回俳句甲子園で最優秀賞に選ばれた一句です。戦争で命を落とした人の遺品に、青いハンカチがありました。ハンカチは夏の季語。汗を拭うものとしてのハンカチが、その人の生きていた時間を思わせます。今も各地で戦火は続いています。もうここにはいないその人の代わりに、平和への切ない祈りを抱いて、静かにハンカチを振り、世界を見つめます。

    (監修:神野)

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  • 玫瑰や 今も沖には 未来あり

    2024.08.19 放送

    作者:中村草田男

    中村草田男は、松山で育ちました。人間の存在を見つめる哲学的な作風で、人間探求派と呼ばれました。ハマナスは、青い海をバックに、赤い花をあざやかに咲かせます。かつて海を眺めて将来を思い描いたように、いまハマナスの咲く浜辺で、もう一度はるかな海を見つめます。沖は日差しに輝き、今も変わらず、未来のまぶしさを宿しています。希望を失わない、強いまなざしを秘めた一句です。

    (監修:神野)

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  • 蟻の列 しづかに蝶を うかべたる

    2024.08.16 放送

    作者:篠原梵

    篠原梵は、伊予市に生まれ育った俳人です。人間や自然のありようを見つめ、本質をとらえた俳句を詠みました。この句は、蝶の骸を巣へ運ぶ蟻の列を描いています。蝶を「うかべ」たという表現は、蝶の翅が地面から少しだけ浮いているさまや、蟻たちがなめらかに運んでゆくさまを想像させます。静かだと捉えたことで、粛々と果たされる命のやりとりが迫ってきます。

    (監修:神野)

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  • やがてランプに 戦場のふかい 闇がくるぞ

    2024.08.15 放送

    作者:富澤赤黄男

    俳人の富澤赤黄男は、現在の八幡浜市保内町出身です。季語にこだわらずイメージを生かした作風で、新しい時代の俳句を生み出しました。この句は、戦争の時代に兵士として従軍した体験を詠んでいます。塹壕で眠る夜、灯したランプの明るさが、かえって戦場の闇の深さを浮き彫りにします。何も見えない夜だからこそ、不安や恐怖が膨れ上がります。今日は終戦日、あらためて平和を祈ります。

    (監修:神野)

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  • 絶壁に 眉つけて飲む 清水かな

    2024.08.14 放送

    作者:松根東洋城

    松根東洋城は、宇和島にルーツをもつ俳人です。愛媛県尋常中学校に通っていたころ、教師として赴任していた夏目漱石に、英語を学びました。上京後は俳句を教わり、生涯、漱石を先生と仰ぎました。この句は「清水」が夏の季語です。岩から湧き出て滴る水が、清らかに輝きます。絶壁の岩に、眉が触れるほど顔を近づけ、直接、清水を口にします。からだ全体で、夏の山を感じる俳句です。

    (監修:神野)

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  • 描きて赤き 夏の巴里を かなしめる

    2024.08.13 放送

    作者:石田波郷

    石田波郷は、松山市に生まれ育った俳人です。人生や生活を主題に、俳句を通して、生きることと向き合いました。この句は波郷が21歳のとき、画廊を訪れて詠みました。絵には、パリの夏の風景があざやかに描かれています。愛媛から東京に出てきたばかりの青年にとって、パリという異国の街は、さらにはるかに感じられたでしょう。憧れを駆り立てられる、青春の一句です。

    (監修:神野)

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  • 湯の山の 月を吐かんと する気配

    2024.08.12 放送

    作者:柳原極堂

    柳原極堂は、松山中学時代の正岡子規の同級生です。雑誌「ほととぎす」を立ち上げ、友人として子規の顕彰に生涯を捧げました。この句の季語は「月」です。日が落ちて、道後にも夜がやってきました。湯の山のうしろに月がのぼってきて、山の端をしろじろと明るくしています。温泉に入ってリラックスした気持ちも、お月さまへの期待を高めます。ふるさとの風景をゆったりと詠み上げました。

    (監修:神野)

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  • 叩かれて 昼の蚊を吐く 木魚哉

    2024.08.09 放送

    作者:夏目漱石

    小説家の夏目漱石は、俳人・正岡子規の親友です。中学校の英語教師として松山に赴任したこともあり、その経験をもとに、「坊っちゃん」という小説を書きました。この句は、お坊さんがお経をあげている場面です。木魚を叩いたら、中から、なんと蚊が飛び出てきました。お経よりも蚊のほうが気になって、目で追ってしまうのも、人間味にあふれています。小説家らしい人間観察のきいた一句です。

    (監修:神野)

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  • 風鈴の空は 荒星ばかりかな

    2024.08.07 放送

    作者:芝不器男

    芝不器男は、明治36年、現在の松野町に生まれました。みずみずしい感性で俳壇の期待を集めましたが、病を得て26歳でこの世を去りました。軒先に鳴る風鈴を見上げると、その向こうの夜空に、星が出ています。その光はどこか荒々しく力強く輝き、夏の勢いを感じさせます。夜の涼しい風を受け、風鈴の音も、硬く鋭くひびきます。大きな自然に包まれた、宇宙の静けさが広がります。

    (監修:神野)

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  • ほととぎす あすはあの山 こえて行かう

    2024.08.06 放送

    作者:種田山頭火

    種田山頭火は、各地を放浪して俳句を詠んだ、さすらいの俳人です。575にとらわれない自由な韻律で、旅の日々を詠みました。その果てに松山へ辿り着き、一草庵で生涯を終えました。夏の山でほととぎすの声を聞きながら、明日の行く先をイメージしています。あの山を越えたら、向こうにはどんな風景が広がっているのでしょう。踏み出す一歩に、前向きな気持ちが湧いてきます。

    (監修:神野)

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  • 蜘蛛に生れ 網をかけねば ならぬかな

    2024.08.05 放送

    作者:高浜虚子

    高浜虚子は、松山出身の俳人です。正岡子規に俳句を学び、雑誌「ホトトギス」を通して多くの俳人を育てました。蜘蛛は巣を張り、蝶や羽虫を捉えて食べます。そのさまは残酷に見えますが、蜘蛛に生まれたからには、そのように暮らすしかないのです。だから仕方がないのだと、虚子は蜘蛛に寄り添いました。蜘蛛も、人間も、その他の生きものも、みな、与えられた生を懸命に生きているのです。

    (監修:神野)

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  • 薔薇剪りに出る 青空の谺

    2024.08.02 放送

    作者:河東碧梧桐

    河東碧梧桐は、松山出身の俳人です。郷里の先輩・正岡子規の理念を引き継いで、見たままを写し取る俳句を目指しました。そのうち、575の決まったリズムにのせるのも不自然だと考え、より自由な韻律を模索します。この句もその時期の作です。薔薇のみずみずしい命の声が、まぶしい空にひびきわたるようです。空の青に薔薇の華やかな色が映え、夏空にもはるかな奥行きが生まれます。

    (監修:神野)

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テレビ愛媛ではみなさまから
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2月のお題は
「薄氷」 です

応募フォーム、メールアドレス、ハガキの中からご応募ください。メールアドレス、ハガキでのご応募は、お題を含む俳句(ふりがな)・氏名(ふりがな)・住所・電話番号・メールアドレスを記載してお送りください。一人何句でも応募可能です。選ばれた俳句は、EBC Live News「きょうの俳句」コーナーでの放送のほか、テレビ愛媛のホームページ等で紹介します。作者の氏名(ペンネームの場合はペンネーム)、お住いの市町名(ジュニアの場合は学校名)も紹介されます。
(採用された方には放送日を事前に連絡し、記念品を贈らせていただきます。)
※俳句の募集は、毎月第2月曜日、午後6時から開始します。

応募規約

・応募作品は未発表で、ご自身の作品(著作権がご自身にある作品)に限ります。
・他人の作品に著しく類似、または他人の作品の盗用など、第三者の権利を侵害する可能性があると判断した場合は、応募の対象外とします。
・テレビ愛媛は応募作品による権利の侵害等に対し、一切の責任を負いません。

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〒790-8537 テレビ愛媛「きょうの俳句」係

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