2023年8月の俳句

  • 秋はさびしと 決めてかかりし 紅生姜

    2023.08.31 放送

    作者:池田澄子

    残暑はまだ続きますが、秋を迎える気持ちを先駆けて詠みました。日の暮れがだんだん早くなり、夕暮れ時の心細さを想像してみます。秋は寂しいものだと決めてかかれば、むしろ覚悟して、寂しさを楽しむ自分でいられそう。食卓に添えられた紅生姜の赤が、ピリっと心に灯り、気持ちをしゃんとさせてくれました。

    (監修:谷)

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  • 頂の 札所に秋の 汗拭ふ 

    2023.08.30 放送

    作者:川端龍子

    有名な日本画家であった龍子は「ホトトギス」の同人でもありました。65歳の昭和25年から6年をかけて、毎年東京から四国遍路に出かけました。八十八か所を巡り、スケッチをし、俳句を作りました。この句の「頂の札所」は60番・横峰寺。当時は坂のひときわ険しい札所で、登りつめた頂で拭った安堵の汗です。

    (監修:谷)

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  • むかしから 穴もあかずよ 秋の空

    2023.08.29 放送

    作者:上島鬼貫

    空に穴が開いたためしがないのは、そう、昔からのこと。当たり前のことを詠んだ楽しさです。澄んで広々とした秋空に「穴が無いなあ」と、改めて感慨を覚えたのでしょうか。「あかず」は、「飽きない」にかけていて、飽きないで見上げていても、穴の開かない空なのです。作者は、松尾芭蕉とほぼ同時代に活躍しました。

    (監修:谷)

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  • 赤とんぼ 空はひろいね 困ったね

    2023.08.28 放送

    作者:香川昭子

    赤とんぼは、秋の水田などを彩る親しい蜻蛉です。蜻蛉は目が大きく、270度もの視界があるそうです。速力も速く、空中で静止も出来きます。この赤とんぼ、仲間からはぐれたのでしょうか。それとも一匹で飛行を楽しんでいた?最後の「困ったね」が、可笑しいです。飛べども続く空の広さに、途方に暮れてしまったようなのです。

    (監修:谷)

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  • 朝焼や 四国しづかに 隆起して

    2023.08.25 放送

    作者:松山東高校 篠原孝太

    第26回俳句甲子園で、入選に輝いた作品です。朝焼は夏の季語です。日の出の朝、東の空が色づく現象です。四国山脈の稜線が朝焼けに染まるとき、地球規模の歴史に思いを馳せました。長い年月をかけて大地は隆起し、今も動いています。大きな自然の運行への畏怖が、静かに湧き上がります。

    (監修:神野)

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  • 星月夜 AIが謝ってきた

    2023.08.24 放送

    作者:松山東高校 谷口春菜

    第26回俳句甲子園で、入選に輝いた作品です。星月夜とは、星の光だけでじゅうぶん明るい夜のことです。今、私たちの生活の中にも、AIの技術が浸透しています。AIがやりとりの中で、ふいに「ごめんなさい」と謝ってきたら、まるでAIも心を持っているようで、ドキッとします。宇宙を感じる星月夜には、AIとの距離もぐっと縮まります。

    (監修:神野)

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  • コスモスや 我の三歩は 皆の二歩

    2023.08.23 放送

    作者:愛光高校 星川優希

    第26回俳句甲子園で、入選に輝いた作品です。コスモスは、野にたくましく揺れる、秋の花です。他の人は二歩で進める距離が、私の歩幅では三歩かかります。みんなの速さに追いつくよう、一生懸命、歩かなきゃ。その気持ちは健気で、切なく響きます。自分のペースで大丈夫。風に揺れるコスモスが、静かに励ましているようです。

    (監修:神野)

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  • 生家てふ 市営アパート 星月夜

    2023.08.22 放送

    作者:松山東高校 田邊広大

    第26回俳句甲子園で優秀賞に輝いた作品です。星月夜が秋の季語です。月のない夜、星の光だけで明るく、まるで月が出ているような夜を指します。生まれ育った生家にも、それぞれの形があります。宇宙に点在する星の光のように、市営アパートの窓にも、なつかしく優しく、灯が点ります。

    (監修:神野)

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  • 月涼し 伽藍に蟹の道のある

    2023.08.21 放送

    作者:名古屋高等学校 小田健太

    第26回俳句甲子園で最優秀賞に輝いた一句です。伽藍とは、寺院で修行などをするための建物です。海や川のそばの寺院なので、蟹がやってきて、歩いているのでしょう。蟹は満月の夜に産卵すると言われています。広い伽藍を横切る、生きた蟹の気配。夏の夜空に輝く涼しい月が、命の神秘の営みを、静かに照らしています。

    (監修:神野)

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  • 夕焼けの金を まつげにつけてゆく

    2023.08.11 放送

    作者:富澤 赤黄男

    俳人の富澤赤黄男は、現在の八幡浜市保内町出身です。象徴的な作風で知られ、戦後の前衛俳句を牽引しました。夕焼けの光が、睫毛にきらきらと輝いています。金という色を示すことで、夕日の力強さや、今この瞬間の輝きが感じられます。きっと、その人の瞳には、明日を信じる光が宿っているでしょう。難しい言葉は使わないシンプルな表現から、ゆたかな詩情があふれています。

    (監修:谷)

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  • 朝顔の 紺の彼方の 月日かな

    2023.08.10 放送

    作者:石田波郷

    石田波郷は、松山市に生まれ育った俳人です。肺結核の療養の中で、人生や生活を主題にし、俳句を通して「生きる」ことと向き合いました。朝顔は青やピンクなど花の色もさまざまです。中でも紺色は落ち着いた印象がありますね。朝顔の紺を見つめていると、彼方に過ぎ去った日々が懐かしく、同時に、未来の匂いもよぎりました。人間の時間を包みこむ、大いなる自然のサイクルを感じます。

    (監修:谷)

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  • 吾生は へちまのつるの 行き処 

    2023.08.09 放送

    作者:柳原 極堂

    柳原極堂は、松山中学時代の正岡子規の同級生です。雑誌「ほととぎす」を立ち上げ、友人として子規の顕彰に生涯を捧げました。この句は、極堂がこの世を去るときに詠んだものです。私の人生は、糸瓜の蔓が伸びてゆく先をともに目指してきたのだと、来し方を振り返りました。糸瓜とは、子規のこと。子規は、死ぬ間際に糸瓜の句を詠みました。子規に憧れ、その背中を追い続けた、友情の一句です。

    (監修:谷)

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  • 立秋の 紺落ち付くや 伊予絣

    2023.08.08 放送

    作者:夏目漱石

    小説家・夏目漱石は、正岡子規の親友で、中学校の英語教師として松山に赴任したこともあります。伊予絣は、松山で作られた木綿の紺絣です。明治時代の松山では絣の製造が盛んで、日本三大絣にも数えられました。立秋を迎え、ふだん着ている伊予絣の紺色も、どこか落ち着いて感じられます。今日は立秋です。まだ暑い日は続きますが、漱石のように、生活の中に秋を探したいものですね。

    (監修:谷)

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  • 万緑の中や 吾子の歯生え初むる

    2023.08.07 放送

    作者:中村 草田男

    俳人・中村草田男は、中国のアモイに生まれ、松山で育ちました。人間の存在を見つめる哲学的な作風で、人間探求派と呼ばれました。「万緑」という言葉は、草田男が漢詩の一節から見つけ、新しく採用された季語です。夏の草木が一面みどりに輝く中、私の子どもに今、小さな歯が生えはじめました。広がる万緑のエネルギーに、赤ちゃんの秘めた生命力が、きらきらと呼応します。

    (監修:谷)

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  • 向日葵の 蕋を見るとき 海消えし

    2023.08.04 放送

    作者:芝不器男

    芝不器男は、明治36年、現在の松野町に生まれました。みずみずしい感性で俳壇の期待を集めましたが、病にかかり、26歳で夭折しました。夏のまぶしい日差しの中、向日葵の花にぐっと近づけば、びっしりと蕋がひしめきます。その蕋を見つめていると、背後に広がる海の存在を、すっかり忘れていました。海に負けない向日葵の存在感が、夏にみなぎる命の力を物語ります。

    (監修:神野)

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  • あるけばかつこう いそげばかつこう

    2023.08.03 放送

    作者:種田山頭火

    種田山頭火は、各地を放浪して俳句を詠んだ、さすらいの俳人です。575にとらわれない自由な韻律で、あてどのない旅の道程をいきいきと詠みました。その果てに松山へたどり着き、一草庵で58年の生涯を終えました。この句も山を歩いている場面でしょう。人間がのんびり歩いても急ぎ足になっても、かっこうは変わらず鳴いて、その声を響かせます。自然のふところの深さを感じる一句です。

    (監修:神野)

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  • わだつみに 物の命の くらげかな

    2023.08.02 放送

    作者:高浜虚子

    高浜虚子は、松山出身の俳人です。正岡子規のもとで俳句を学び、雑誌「ホトトギス」を通して、多くの俳人を育てました。広い海原に、くらげが漂っています。海の果てしなさに比べれば、くらげの命は小さくてとるに足らないかもしれません。それでも、寄る辺ない海の中でたしかに生きている、一つの命なのです。そして、人間もくらげと同じ、たった一つの命を抱いて、この世界で生きています。

    (監修:神野)

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  • 愕然として 昼寝さめたる 一人かな

    2023.08.01 放送

    作者:河東碧梧桐

    河東碧梧桐は、松山出身の俳人です。郷里の先輩・正岡子規のもとで俳句を学び、新しい時代の俳句の姿を模索しました。この句の季語は昼寝です。夏は暑くて疲れるので、体力回復のための昼寝が季語になっています。昼寝から覚めたら、ぽつんと一人。夢の内容に愕然としたのでしょうか、誰もいないことに驚いたのでしょうか。日常の時間の中に、生きることの孤独が、ふと顔を出します。

    (監修:神野)

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テレビ愛媛ではみなさまから
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5月のお題「葉桜(はざくら)」の
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応募フォーム、メールアドレス、ハガキの中からご応募ください。メールアドレス、ハガキでのご応募は、お題を含む俳句(ふりがな)・氏名(ふりがな)・住所・電話番号・メールアドレスを記載してお送りください。一人何句でも応募可能です。選ばれた俳句は、EBC Live News「きょうの俳句」コーナーでの放送のほか、テレビ愛媛のホームページ等で紹介します。作者の氏名(ペンネームの場合はペンネーム)、お住いの市町名(ジュニアの場合は学校名)も紹介されます。
(採用された方には放送日を事前に連絡し、記念品を贈らせていただきます。)
※俳句の募集は、毎月第2月曜日、午後6時から開始します。

応募規約

・応募作品は未発表で、ご自身の作品(著作権がご自身にある作品)に限ります。
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