2022年8月の俳句

  • 黒きまでに 紫深き 葡萄かな

    2022.08.31 放送

    作者:正岡子規

    私たちは、単に黒葡萄と呼んで親しんでいます。それで、子規の句を読むとドキッとします。黒いまでに深い紫なのだ、と認識し直して、葡萄の一粒一粒に魅惑されます。子規はこの句を作った明治35年の秋に亡くなります。『病床六尺』の今日の日記には、枕元に置いた絵のことを、命の次に置いて居る草花の画と、記しました。

    (監修:谷)

    音声で俳句を聞く/止める
  • 取り切れぬ草虱 あきらめて旅

    2022.08.30 放送

    作者:佐藤郁良

    草虱は、藪虱に同じ。夏には小さな白い花を咲かせます。秋になると楕円形の実をむすび、他のものにくっつくので、この名が付いています。雑草と見間違うので、うっかり草叢に踏み込むと、ズボンなどにさっと、しかもいくつも付いて泣きたくなります。この句の人物は旅の途中のようで、全部取るのはあきらめ、草虱と一緒に歩を進めました。

    (監修:谷)

    音声で俳句を聞く/止める
  • 一人居や 流しに立ちて 桃すする

    2022.08.29 放送

    作者:金井令子

    一人居は、今相手が居ないとも、一人暮らしとも想像できます。ともあれ、キッチンの流しの前で、立ったままにお行儀悪く食べても誰にもわかりません。一人居の特権です。しかも、桃とあれば、尚更特権を行使しないほうは無いでしょう。薄い皮を剥くと、熟れた果肉に香り高い果汁が滴り、もう、唇は白い芳醇な果実をすすっています。

    (監修:谷)

    音声で俳句を聞く/止める
  • 炎天に 五十万個の 肝小葉

    2022.08.26 放送

    作者:越智優介(新田青雲中等教育学校)

    今年の第25回俳句甲子園で入賞に輝いた一句です。肝小葉とは、肝臓を構成する組織です。五十万個もの肝小葉が集まる肝臓は、代謝をつかさどり、エネルギーを作ります。炎天下、ふと体内ではたらく肝小葉の細胞に意識を向けました。暑い夏には体の調節機能がたよりです。五十万個という巨大な数字に、生命の神秘や、湧き上がるエネルギーを感じます。

    (監修:神野)

    音声で俳句を聞く/止める
  • 廃校の 土俵に上がる 良夜かな

    2022.08.25 放送

    作者:田頭幸太郎(愛媛県立今治西高校)

    今年の第25回俳句甲子園で入賞に輝いた一句です。良夜は秋の季語で、月の明るく美しい夜を指します。月光の中、廃校になった学校を訪れ、校庭の土俵に上がってみました。かつては子どもたちが賑やかに相撲をとった土俵も、へりが崩れ、静けさに包まれています。美しく穏やかな良夜だからこそ、失われたものたちの不在が、対比的に心を満たします。

    (監修:神野)

    音声で俳句を聞く/止める
  • 七月を 伝えるための 俺の手話

    2022.08.24 放送

    作者:篠原孝太(愛媛県立松山東高校)

    今年の第25回俳句甲子園で入賞に輝いた一句です。七月を伝えるとは、単に言葉の意味だけでなく、七月の風や光、夏本番の心の昂揚、思い出や約束や期待、すべてを指すのでしょう。「俺」という飾り気のない剥き出しの一人称が、まっすぐに体当たりで相手と心を通わせようとする、一途な勇気を物語ります。

    (監修:神野)

    音声で俳句を聞く/止める
  • 朝の駅 ゼラチン質の 七月です

    2022.08.23 放送

    作者:阿部縁(愛媛県立今治西高校伯方分校)

    今年の第25回俳句甲子園で優秀賞に輝いた一句です。ゼラチンはコラーゲン由来のたんぱく質で、ゼリーなどに使われます。梅雨も明け夏らしくなってきた朝、駅に立つと、周囲の空気に、ゼラチンのような光や弾力を感じました。ぬるい空気が光をはらみながら、ゆらりと固まりかけています。七月の空気感を感覚的にとらえました。

    (監修:神野)

    音声で俳句を聞く/止める
  • 草いきれ吸って 私は鬼の裔

    2022.08.22 放送

    作者:阿部なつみ(岩手県立水沢高校)

    今年の第25回俳句甲子園で最優秀賞に輝いた一句です。茂った草からムッと匂う草いきれを吸ったとき、私は鬼の末裔なのだと頷きました。作者の住む東北は、かつて中央政権に侵略された地域です。虐げられた民族の子孫として、自然の生命力に力をもらい、プライドをもって生きていこう。自らのルーツを確かめ、未来へ向かい大地を強く踏みしめる俳句です。

    (監修:神野)

    音声で俳句を聞く/止める
  • 寅さんも 眺めたか 双海の夕焼

    2022.08.12 放送

    作者:名智満(松山市)

    山田洋次監督の映画『男はつらいよ』の第19作『寅次郎と殿様』は、愛媛県大洲市が舞台です。渥美清演じる寅さんが、冒頭で夢から覚めた場所は、双海の下灘駅でした。双海は夕焼けの美しさで知られています。その場面は夕方ではありませんでしたが、寅さんが双海の夕焼けを見たら、さて何と言ったでしょうね。

    (監修:神野)

    音声で俳句を聞く/止める
  • 樹の骸流れる ガンジスの夕焼

    2022.08.11 放送

    作者:桑島幹(千葉県)

    ガンジス川はインドを流れる大河で、古代より、聖なる河として信仰されてきました。人々は川で沐浴をして体を浄め、死後の骨も流します。上流から流れてきた樹も、「骸」と呼ぶことで、ひとつの命となってガンジスに抱かれます。圧倒的で、どこかなつかしい、壮大な夕焼けです。

    (監修:神野)

    音声で俳句を聞く/止める
  • 指ずもう 夕焼を待つ 美術室

    2022.08.10 放送

    作者:南あん(和歌山県)

    美術室で、指相撲をしながら、夕焼けが訪れるのを待っています。美術部の仲間と、美しい夕焼けを見よう、絵に描こうと約束しているのでしょう。何をするでもなく、指相撲をして遊んだりする、青春の時間。このあと、きっと素晴らしい夕焼けがあふれ、彼らの忘れられない記憶のひとかけらとなるはずです。

    (監修:神野)

    音声で俳句を聞く/止める
  • 拭きあげて ゆやけに潤む 馬の胴

    2022.08.09 放送

    作者:綾竹あんどれ(東京都)

    夕焼けは「ゆやけ」とも読みます。炎天下で働いた馬を洗ってやり、泥や汗を流したのでしょう。濡れた体をていねいに拭き上げれば、毛並みはつやつやと夕焼けに輝きます。その濡れた質感を「ゆやけに潤む」とポエティックに表現しました。一日の終わり、馬の胴の存在感が、ぐいっと眼前に迫ります。

    (監修:神野)

    音声で俳句を聞く/止める
  • 夕焼の フェリーに啜る かけうどん

    2022.08.08 放送

    作者:松田夜市(松前町)

    夕方になると、空が真っ赤に染まる夕焼け。一年を通して見られる天体現象ですが、夏は特にあざやかで壮大なことから、夏の季語となっています。夕暮れ、移動のために乗ったフェリーで、小腹を満たすため、かけうどんを啜ります。窓の外には夕焼けの海。人生の時間が、ゆたかに流れています。

    (監修:神野)

    音声で俳句を聞く/止める
  • 木道をゆけば カレー屋 法師蝉

    2022.08.05 放送

    作者:松本だりあ

    木道とは、湿地などで散策用に設けた、木で作った歩道です。このカレー屋、森の中に在りそうな気配です。森ではもうつくつく法師が鳴いています。なんだか宮沢賢治の『注文の多い料理店』を思い浮かべますね。もちろんこの人は、お金に欲などなく顔もくしゃくしゃにされたりしません。美味しいカレーに辿り着けたはずです。

    (監修:谷)

    音声で俳句を聞く/止める
  • かつと夏くる 闘牛の角と角

    2022.08.04 放送

    作者:平岡千代子

    宇和島の闘牛大会は、今年は四回開催されます。次場所は八月十四日。制限時間なしで牛同士が闘い、逃げた方が負けというシンプルなルール。でも、牛はそれぞれに技を持ち、迫力の闘いに挑みます。見守る観客の声援が夏空に響き渡ります。「かつと」は、来る夏にも、見開いた牛の目にも、かかっているようです。

    (監修:谷)

    音声で俳句を聞く/止める
  • 水鉄砲 ぐらぐらの歯を 見せにくる

    2022.08.03 放送

    作者:ふけとしこ

    水鉄砲で遊んでいた子が、にたにた笑いながら近づいて来ました。ぐらぐらになった前歯は、なぜか子どもの自慢なのです。大人になった今では、どうしてそんなに嬉しかったのか忘れてしまいましたが。誰もがきっと一度は見た、あるいはやって見せた光景です。明るくもあり、一方で、乳歯から永久歯に換わる寂しさもちょっぴり。

    (監修:谷)

    音声で俳句を聞く/止める
  • 鵜遣ひは 朝寝顔なり 捨篝

    2022.08.02 放送

    作者:釈一宿

    鵜遣いは、飼いならした鵜を使って鮎をとる人で、鵜飼い・鵜匠とも呼ばれます。気負い立った鵜を使い、鵜縄を巧みにさばきます。打って変わった翌朝の鵜遣いの顔を「朝寝顔」と、ユーモラスに詠みました。厳しい顔を照らしていた夕べの篝もまた、捨てられたように河原に在ります。作者は、松山市の子規庵のある正宗寺の住職で、子規に俳句を学びました。

    (監修:谷)

    音声で俳句を聞く/止める
  • 言い負けて 潜るプールの 青い底

    2022.08.01 放送

    作者:児玉硝子

    はしゃいでいるうちに、本気になってきてしまったのでしょうか。あるいは、喧嘩してプールに飛び込んだのかもしれません。言い負けたと観念して、プールの底近くまで潜り込んだとき、その青さに、悔しさを忘れたのではないでしょうか。こわばっていた心も、滲んでいた涙も、鮮やかなブルーに溶けていくようです。

    (監修:谷)

    音声で俳句を聞く/止める

テレビ愛媛ではみなさまから
俳句を募集しています!

5月のお題は
「葉桜(はざくら)」 です

応募フォーム、メールアドレス、ハガキの中からご応募ください。メールアドレス、ハガキでのご応募は、お題を含む俳句(ふりがな)・氏名(ふりがな)・住所・電話番号・メールアドレスを記載してお送りください。一人何句でも応募可能です。選ばれた俳句は、EBC Live News「きょうの俳句」コーナーでの放送のほか、テレビ愛媛のホームページ等で紹介します。作者の氏名(ペンネームの場合はペンネーム)、お住いの市町名(ジュニアの場合は学校名)も紹介されます。
(採用された方には放送日を事前に連絡し、記念品を贈らせていただきます。)
※俳句の募集は、毎月第2月曜日、午後6時から開始します。

応募規約

・応募作品は未発表で、ご自身の作品(著作権がご自身にある作品)に限ります。
・他人の作品に著しく類似、または他人の作品の盗用など、第三者の権利を侵害する可能性があると判断した場合は、応募の対象外とします。
・テレビ愛媛は応募作品による権利の侵害等に対し、一切の責任を負いません。

個人情報の取り扱いについて

頂いた個人情報は、優秀句に選ばれた方への事前連絡並びに記念品をお送りする際にのみ使用させて頂きます。

俳句の応募はこちら

メールアドレスからの応募: 応募先メールアドレス

ハガキからの応募:
〒790-8537 テレビ愛媛「きょうの俳句」係

すべての俳句を聞く
掲載されている句がランダムで再生されます
すべて聞く/止める

最新の俳句

バックナンバー

pagetop