2023年9月の俳句

  • 満月や 大人になっても ついてくる

    2023.09.29 放送

    作者:辻征夫

    今日は、仲秋の名月です。一年のうちで一番美しく、しかも今年は満月です。月は確かに、歩いても走っていても、気づくとすぐ後ろにいます。その不思議を、子どもの時からずうっと付いて来ている月だ、と表現して楽しい句。作者は、現代詩を書く著名な詩人でしたが俳句もし「貨物船」という俳号でした。

    (監修:谷)

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  • かの窓の かの夜長星 ひかりいづ 

    2023.09.28 放送

    作者:芝不器男

    夜長は、短かった夏の夜のあとゆえに、長く感じる秋の夜のことです。「夜長星」は作者独特の言葉。「かの」のリフレインに思いがこもります。誰の心の中にもある「かの窓」に、星が光り出す秋がやってきました。26歳で亡くなった郷土の俳人芝不器男は、九州の病室でこの句を詠みました。遠く離れた故郷の窓を思ったでしょうか。

    (監修:谷)

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  • 人生は 秋晴もあり 野菊も咲き

    2023.09.27 放送

    作者:京極杞陽

    秋晴れと野菊、一句に二つの季語が重なっています。ちょっと反則で欲張りな句ですが「秋晴れもあり」と、澄み渡った空を仰ぎ、足元には「野菊も咲き」と小さな花に気づく。なんとも気持ちの良い秋の日との出会いです。この句を口ずさむと、心が広々となって、人生もまたしかりだ、と私たちも思えてきそうです。

    (監修:谷)

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  • イワシショー 果てて秋思の ごときもの

    2023.09.26 放送

    作者:杉山久子

    秋思は、寂しい秋の物思い、感傷的な気分です。水族館で、最近話題のイワシショー。2万匹ほどの鰯が、大水槽のライトの中で群れ動くそうです。眩しいばかりのショーが終わったあとに、襲ってきた秋思。取り残されたように、ぽつんと立っている感じ。あるいは、ショーとは知らない鰯への、切ない思いが起こったのでしょうか。

    (監修:谷)

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  • 別れ路や ただ曼珠沙華 咲くばかり

    2023.09.25 放送

    作者:久保より江

    別れ路とは「人と別れてこれからたどっていく道」のこと。大切な人との別れのあと、目の前の道を曼珠沙華が縁取っている。群れ咲く真っ赤な色が胸に迫ります。寂しくも、一人で歩きはじめる決意のような心が「ただ咲くばかり」なのかも知れません。作者は松山出身の俳人で、夏目漱石が松山に滞在中に世話になった、上野家の孫娘でした。

    (監修:谷)

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  • 坑道へ 螺灯くすぐる 秋の風

    2023.09.22 放送

    作者:加島一善(新居浜)

    螺灯とは、鉱山の採掘現場で使われた手持ちのランプです。サザエの壺にクジラの油を満たし、灯心に火を灯します。新居浜の別子銅山でも使われていました。螺灯を提げ、暗い坑道へ入ってゆくとき、秋風が火をくすぐり、明かりが揺らめきます。坑道の闇の気配が、秋風とともに、ひんやり体を包みます。

    (監修:神野)

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  • 秋風を 蹴飛ばす女 ドラム打つ

    2023.09.21 放送

    作者:林 省造(大阪)

    わびしい秋風は、日本らしい情緒をたっぷり含んだ季語です。その秋風を蹴飛ばして、パワフルにドラムを演奏する人がいるとは。秋の寂しさに負けず、自分の力で真っ向からぶつかるスタンスは、爽快です。その迫力に驚きながら、力強く励まされる一句です。

    (監修:神野)

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  • 一枚の窓 秋風と 不登校

    2023.09.20 放送

    作者:野口雅也(兵庫)

    一枚の窓を隔て、外には秋風が吹き、室内には学校へ行けない子どもがいます。今、小中学校の不登校の子どもたちは、全国で二十四万人を越えるといいます。一枚の窓の外には世界が広がっています。彼らがそれぞれ、自分の居場所を見つけられるよう、秋風に祈ります。

    (監修:神野)

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  • 漱石の 便り待つ子規 秋の風

    2023.09.19 放送

    作者:武井日出子(松山)

    今日は正岡子規の忌日です。明治35年の秋、子規は脊椎カリエスによりこの世を去りました。そのころ親友の夏目漱石は、留学先のイギリスに滞在中でした。もう旅に出られない病臥の子規は、漱石がイギリスの様子を知らせる手紙を、楽しみにしていました。秋風が、病床六尺を、涼しく寂しく吹き抜けます。

    (監修:神野)

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  • 全集の 禁帯シール 秋の風

    2023.09.18 放送

    作者:幸田梓弓(三重)

    図書室の風景でしょう。貸出不可の本に貼られる禁帯出のシールが、全集の一冊一冊にも、ずらりと貼られています。全集には、過去を生きた人々の言葉が、誰かに読まれるそのときを、ひそやかに待っています。窓から吹きこむ秋風は、図書室に満ちる静けさを深めます。

    (監修:神野)

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  • 今もなほ 上人坂に 秋の風

    2023.09.15 放送

    作者:名智 満(松山)

    道後の上人坂は、一遍上人の生誕地・宝厳寺の参道となっている坂です。かつて正岡子規は、夏目漱石と道後を散策し、宝厳寺の山門で〈色里や十歩はなれて秋の風〉と詠みました。上人坂をのぼりきれば、子規と漱石も感じた秋風が吹いています。百年の時空を超えてしみわたる、今日の秋風です。

    (監修:神野)

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  • 空き瓶へ 色なき風の 光かな

    2023.09.14 放送

    作者:亀田かつおぶし(栃木)

    秋風には、いろいろな別名があります。その一つが「色なき風」。華やかな色や艶めきのない風という意味で、秋の寂しさをまとう季語です。秋風の中の空瓶は、ほのかに光を帯びています。風の色は失われたけれど、光はまだある、その発見に、今ここにある世界の儚さと尊さが立ち上がります。

    (監修:神野)

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  • 秋風に 乾く野良着を 一抱へ

    2023.09.13 放送

    作者:井上定男(西予)

    畑仕事を済ませたあと、野良着を洗って干しておきました。乾いたら、さっと一抱えにして取りこみます。農業の暮らしの日常ですが、秋風を加えたことで肌感覚が伝わります。秋はみのりの季節、この野良着で収穫する喜びもあるでしょう。秋風のわびしい情緒を、生活実感を核にして、軽やかに詠みました。

    (監修:神野)

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  • 留学生連れ 秋風の面河渓

    2023.09.12 放送

    作者:久保田凡(松山)

    石鎚山のふもとにある面河渓谷は、夏も涼しく気持ちのよい景勝地です。留学生に日本の自然に触れてもらおうと、一緒に面河渓まで出かけました。秋が深まると、美しい紅葉も見られます。日本で過ごした記憶として、心に残る風景となりますように。渓谷の秋風は心地よく、ひととき時間を忘れて佇みます。

    (監修:神野)

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  • 後ろの正面だあれ 秋風の吹く

    2023.09.11 放送

    作者:堤 善宏(松山)

    秋はすべてのものが衰えてゆく、わびしさの募る季節です。秋の風にも、世の移り変わりをしみじみと噛み締める情趣があります。後ろの正面だあれ。子どもの遊びで鬼が振り返ると、そこには秋風が吹くばかり。いたはずの人たちが消えてしまった喪失感は、秋風のまとう寂しさに満ちています。

    (監修:神野)

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  • やはらかに 人分け行くや 勝角力

    2023.09.08 放送

    作者:高井几董

    勝った力士が土俵を引き上げていく様が、鮮やかに目に浮かびます。見物客の喝采の中を歩く、大きな力士の息遣いや誇らしげな姿を「やわらかに」という言葉で見事に現わしました。作者は江戸中期、蕪村門で活躍しました。間もなく始まる秋場所。花道をやわらかく通る力士たちに、拍手を送りたいです。

    (監修:谷)

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  • 新居浜の 煙突のもと 鯊の汐

    2023.09.07 放送

    作者:皆吉爽雨

    爽雨は明治35年、福井県生まれの俳人です。新居浜を訪れたのは、昭和24年47歳の時。新居浜は愛媛県第二位の人口を有する臨海工業都市ですが、今は当時のように鯊の釣れる汐は見られないかも知れません。鯊釣りを楽しむ人々と、工場の煙突とが共存する風景を想像して、なんとなく心が緩んできます。

    (監修:谷)

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  • 響爽か いただきます といふ言葉

    2023.09.06 放送

    作者:中村草田男

    「爽やか」は、さっぱりとして快いこと、鮮明であるという意味です。空気が清く、快適な秋に相応しいため、季語となっています。「いただきます」は、いつも言う挨拶なのに、秋の朝にはひと際家の中に響きます。改めていい言葉だなあと気づいたのでしょう。「響爽か」の詠い出しが効果的で、なんとも気持ちのいい一句です。                                                                              

    (監修:谷)

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  • この森の 映つてゐたる 木の実かな

    2023.09.05 放送

    作者:千葉皓史

    木の実は、櫟、楢、杉、椎、榎など、秋に結実する小さい実の総称です。この森に落ちていた木の実は、私たちにも親しい櫟の団栗かも。一つを拾い上げてかざしてみると、木の実がまるで暗い森の全部を映しているように、深い色を湛えています。木々や地中で育まれている様々な生命のうごめきも、見えてくるようです。

    (監修:谷)

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  • 切る前に ちょっと転がす 酢橘かな

    2023.09.04 放送

    作者:津田このみ

    酢橘は柚の近縁で、江戸時代から栽培され、徳島県の特産とされています。熟す前の緑色の果実を収穫し、その風味を様々な料理に利用します。まな板の上でしょうか。切る前に転がしてみたという、なんということもない一場面です。でも、ちょっと物思いの指から離れていく青い酢橘が、いとおしく見えてきます。

    (監修:谷)

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  • 田を責める 二百十日の 雨の束

    2023.09.01 放送

    作者:福田甲子雄

    季語は「二百十日」は、立春から数えて二百十日目をいい、今日がその日にあたります。この日と二百二十日の両日は、農家の厄日とされています。このころに台風がよく襲来するという警告の意味があります。襲ってきた様子を「責める」「雨の束」と強く表現して、この時季の自然の怖さを、目の当たりに表現しました。

    (監修:谷)

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(採用された方には放送日を事前に連絡し、記念品を贈らせていただきます。)
※俳句の募集は、毎月第2月曜日、午後6時から開始します。

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