2017年10月の俳句

  • 夜が寂しくて 誰かが笑いはじめた

    2017.10.31 放送

    作者:住宅顕信

    岡山出身の自由律俳人・住宅顕信の一句です。夜、突然聞こえてくる、誰かの笑い声。笑っているのは、夜が淋しいせいだ、少しでも淋しさから逃れようと笑っているのだ、と考えました。作者もまた、孤独に耐えていたのでしょう。淋しい夜をそっと支えてくれる、等身大の言葉です。

    (監修:神野)

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  • 日あたりや 熟柿の如き 心地あり

    2017.10.30 放送

    作者:夏目漱石

    「日あたりのいい縁側で、ぽかぽかとぬくもる心地を、」熟した柿になったみたいだ、とたとえました。甘くてとろけそうな熟柿、とっても気持ちよさそうです。ちなみに正岡子規も、親友・漱石を柿に見立てました。「うまみ沢山 まだ渋の抜けぬも混じれり」。うまみも渋みもあるのが、漱石らしさなのでしょう。

    (監修:神野)

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  • 捨つるもの 捨てて今ある 温め酒

    2017.10.27 放送

    作者:木附沢麦青

    明日は旧暦九月九日、重陽の日です。この日に温めた酒を飲むと、病気にかからず冬を無事に過ごせるといわれています。そろそろ秋冷が身に沁みる頃で、冷たい酒よりも温めた方が体によいのでしょう。80歳を過ぎて身辺を整理した作者は、すっきりとした気分で「温め酒」を楽しんでいます。(なお「熱燗」は冬の季語で、温め酒とは別のものです。)

    (監修:池内)

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  • ポケットが楽し 硬貨とどんぐりと

    2017.10.26 放送

    作者:黒崎かずこ

    ブナ科の落葉樹、櫟、楢、樫などの木の実をひっくるめて「どんぐり」と呼びます。どんぐりは皮が堅く、熟しても皮が剥けず、お椀の形の殻に包まれています。熟すると地面に転がってよく弾みます。どんぐりの独楽は、懐かしい遊びです。作者は、通りがかりに拾ったどんぐりが、ポケットの中で硬貨といっしょに出す音を楽しんでいるようです。

    (監修:池内)

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  • 藍色に 山影暮れて 鹿の鳴く

    2017.10.25 放送

    作者:深沢暁子

    (日本のほぼ全土に棲む)「鹿」は、昔から声の動物といわれています。恋の季節にあたる十月から十一月、鹿の雄が雌を求めて鳴くかん高い声には、秋の深まりを感じさせる哀愁があります。『古今集』以来、歌人たちは鹿の声に自身の妻恋いの思いを重ね合わせて来ました。夕暮れの山裾から聞こえてくる鹿の声に、作者はしんみりと耳を傾けています。

    (監修:池内)

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  • 遠くまで晴れて ぎつしりと銀杏

    2017.10.24 放送

    作者:大坪重治

    「銀杏」はイチョウの種子。秋も深まる頃になると、果肉に包まれた実が落ちて強烈な臭いを放ちます。この実をしばらく保存し、よく洗って固い殻を割り中の種子を食べます。(焼いても、茶碗蒸しにしても美味しいものです。)この句は地に落ちる前の銀杏。イチョウの木にぎっしりと実った黄色の銀杏が、よく晴れた秋の空に輝いています。

    (監修:池内)

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  • 晩年や 黄落を追ひ 黄落浴ぶ

    2017.10.23 放送

    作者:吉原三郎

    銀杏、欅、櫟などの、黄色に染まった葉が散る様子を「黄落」といいます。(銀杏並木に見られるように、)色づいた葉が日差しを浴びながらとめどなく散る姿は美しく、深まり行く秋を感じさせる印象的な光景です。作者は今年90歳の方。魅せられたように黄落を追い、黄落を全身に浴びています。黄落の美しさは人生の晩年にも重なるのかもしれません。

    (監修:池内)

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  • 真ん中の 栗の平たさ 生きづらさ

    2017.10.20 放送

    作者:葛城蓮士

    俳句甲子園出身の若手俳人の一句です。たしかに、いがの中にぎゅうぎゅう詰まった栗の、真ん中の一粒は、両側から押されて平たいですよね。作者はその栗のさまに、生きづらい現代人の姿を重ねました。まるで上司と部下に挟まれた中間管理職のよう。栗よ、お前もか、と愚痴が聞こえそうです。

    (監修:神野)

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  • ゆく我に とどまる汝に 秋二つ

    2017.10.19 放送

    作者:正岡子規

    明治28年の今日、子規は三津浜を出港して東京へ向かいました。この句は、松山で同居した夏目漱石への、送別の句です。東京へゆく私と、松山で教師を続ける君と、これからは二人、別々の秋を過ごすのだなあ。子規の秋、漱石の秋。みなさんは今、誰とどんな秋を過ごしていますか。

    (監修:神野)

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  • 線引けば 敵と味方や 秋の暮

    2017.10.18 放送

    作者:加藤静夫

    敵と味方が生まれてしまうのは、線を引いて、こちらとあちらを分けることから始まるのかもしれません。秋の季語である運動会も、白線を引いてチームを分けます。世界地図に引かれた国境線が敵と味方を分断する国もあります。秋の日暮れのさびしさに、人間のありかたを問い直す一句です。

    (監修:神野)

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  • 秋の海 話せば長く なりますが

    2017.10.17 放送

    作者:安岡麻佑

    松山市在住の若手俳人・安岡麻佑さんの俳句です。さびしい秋の浜辺で、海を見ながらある人と言葉を交わすうち、「話せば長くなりますが…」と切り出されました。話せば長い話とは、簡単には語れない大切な話。まるでここから、カズオイシグロの長編小説がはじまりそうです。

    (監修:神野)

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  • あなたなる 夜雨の葛の あなたかな

    2017.10.16 放送

    作者:芝不器男

    「あなた」とは、遠くという意味。夜、葛がはびこる遠くの野原に、雨がわびしく降っています。そのさらに遠くに、私のふるさとがあるのだなあ…。松野町出身の俳人・芝不器男が、東北の仙台から、愛媛を思って詠んだ句です。「あなた」を二回繰り返すことで、恋しい思いが募ります。

    (監修:神野)

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  • 稲刈の 空を拡げてをりにけり

    2017.10.13 放送

    作者:仲寒蝉

    秋の最も重要な農作業が「稲刈」。(稲が実り過ぎると品質が落ちるので、刈り取る時期が大事です。)鎌で一株ずつ刈った時代は短期間で刈り取るのに大忙しでしたが、現在はコンバインの出現で、刈り取りから脱穀まで一日で済ませるようになりました。これは稲刈の終わった田んぼ。黄金色の稲が占めていた空間にまで、今は秋の青空が広がっています。

    (監修:池内)

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  • 打たれたる 石に艶ある 添水かな

    2017.10.12 放送

    作者:染谷秀雄

    山田を荒らす鳥や獣を追い払うために、水の力で音を出して脅す仕掛けが「添水」。竹筒の中央に支点を置き、片方から水を引きます。溜まった重みで傾いて水が流出すると竹筒は軽くなって跳ね返り、反対側の端が下に置いた石を強く打って音を出します。その音から「ぱったんこ」ともいいます。この句は添水に打たれた石の姿に注目しています。

    (監修:池内)

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  • 両の掌に受く 接待の柿一つ

    2017.10.11 放送

    作者:川内雄二

    「柿」は最も古くから栽培されてきた、日本の秋を代表する果物。艶やかな朱色に熟した柿が、秋の日に美しく照り映える季節です。この句、通りがかりの柿畑で一つ賜った柿をお接待のように有難く両手で頂く姿は、どこか柿好きで知られた正岡子規のイメージとも重なって見えます。作者は松山市にお住まいの俳人です。俳句雑誌「紅日」主宰です。

    (監修:池内)

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  • 雁一行 人一行や 旅の空

    2017.10.10 放送

    作者:秋山朔太郎

    編隊を組んで鳴き交わしながら日本へ渡ってくる「雁」は、秋の深まりをしみじみと感じさせる渡り鳥です。古くは「かりがね」と呼ばれたことからも、雁が姿よりも鳴き声を愛でる鳥だったことが分かります。旅の道中で雁を仰ぎ、声を聞きながら、空を飛ぶ雁の一行も、地上を行く自分たち一行も同じ旅人なのだと、作者は思っているようです。

    (監修:池内)

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  • 飛行船現る 村の運動会

    2017.10.09 放送

    作者:中田尚子

    今日は「体育の日」。昭和39年の東京オリンピック開会式を記念する国民の祝日です。この日に合わせ「運動会」が開かれた地域も多いのではないでしょうか。澄んだ秋空のもと、懸命に競技する児童たちや応援する父母たちの歓声が聞こえてきます。そんな村の運動会の上空に現れた飛行船。ゆっくりと通過する飛行船が、運動会に花を添えています。

    (監修:池内)

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  • 稲の穂に 温泉の町低し 二百軒

    2017.10.06 放送

    作者:正岡子規

    親友だった正岡子規と夏目漱石は、122年前の今日、連れ立って道後を散策しました。坊ちゃん列車に乗り、道後温泉本館へ。風呂上り、道後の街を振り返ってこの句を詠みました。稲のみのりの豊かさ、温泉の湧く豊かさ。子規が故郷・松山の魅力を再発見した一句です。

    (監修:神野)

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  • 今生の いまが倖せ 衣被

    2017.10.05 放送

    作者:鈴木真砂女

    衣被は、里芋の小芋を皮ごと茹でた、シンプルな料理です。これまで生きてきた中で、今が一番幸せ。そう思いながら、衣被をつるんと食べます。辛いこともあったけれど、衣被のある平凡な今を、作者は肯定しています。今生のいまが倖せといえるよう、日々を過ごしたいものですね。

    (監修:神野)

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  • 星殖えにけり 蓑虫が貌出して

    2017.10.04 放送

    作者:櫛部天思

    大気が澄んで、星の美しい秋の夜。まっくらな夜空に、刻々と星が増えてゆきます。蓑虫も蓑から顔を出し、星に見とれているのでしょうか。大きな夜空と小さな蓑虫を対比することで、世界の広さや、ちっぽけな命の尊さを表現しました。

    (監修:神野)

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  • 膝の上に 桃乗せ夜の 観覧車

    2017.10.03 放送

    作者:愛光高校 藤野日向子

    今年の俳句甲子園の入賞作です。夜の観覧車のゴンドラの一つに、ちょこんと座ります。膝の上には桃が。ゴンドラは桃の甘い香りに満たされ、外には夜景が輝きます。ちょっぴり孤独で、しかし豊かな、私だけの夜の時間。上質なショートムービーのような一句です。

    (監修:神野)

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  • 赤い羽根 失くす不思議を 言ひ合へる

    2017.10.02 放送

    作者:岡本眸

    今年も、赤い羽根共同募金が始まりました。社会福祉のために、街頭で募金を呼びかけ、赤い羽根が配られます。胸につけた赤い羽根は、軽くて風に吹かれやすくて、いつの間にかなくしてしまうんですよね。募金した人同士が、その不思議を言い合っている、優しい俳句です。

    (監修:神野)

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(採用された方には放送日を事前に連絡し、記念品を贈らせていただきます。)
※俳句の募集は、毎月第2月曜日、午後6時から開始します。

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